【動画あり】理学療法士が教えるフレイル対策運動 ━━ 予防のカギは「運動」「食」「口腔ケア」と「社会参加」
高齢の方が、いずれ要介護になりそうなほど心身が弱ってきた様子を示す言葉「フレイル」。
国内でも最近、よく耳にするようになりました。
このフレイルの段階であれば、対策を行うことで心身を回復していくことが可能です。
今回は動画付きで予防の運動方法を、また、その他の対策も各種、ご紹介します。
動画はケア21の公式YouTube「ケア21の100年続くチャンネル」でご覧いただけます。
フレイル予防の重要性とは
高齢者の心身が弱まった状態を示す「フレイル」。その内容についてまずご説明します。
「フレイル」とは? 基本を知ろう
フレイルは「健康な状態と要介護状態の、中間の段階」を指す言葉です。
要介護に至る前、「フレイル」の段階であれば、運動や食事の仕方などを工夫することで回復がはかれて、自身を再び健康へ導けます。高齢者といえども、決して「この先、心身が弱まっていくのみ」というわけではないのです。
厚生労働省は、介護に至る前の心身が弱った状態のことを、英語の単語をヒントに「フレイル」と呼ぶことにしました(図では、フレイルの状態になり始めた時期をさらに細分化し「プレフレイル」と表現しています)。 加齢による衰えは徐々に進行するため、なるべく長い期間、要介護でない状態で、高齢者が健康的に過ごせるようにする、というのが「フレイル予防」の主旨となります。
フレイルによる健康への影響
フレイルには3つの種類があります。「1.身体的フレイル」、「2.精神・心理的フレイル」、「3.社会的フレイル」です。これらの弱まりを「年齢のせい」などとして放置し続けると、要介護の状態へ早く移行する可能性があります。
要介護状態になると、身体をうまく動かせなくなったり、食事を上手に飲み込めなくなったり、会話で思ったように言葉をつむげないなど、生活面であらゆる影響が表れます。 1.で言えば自身の身体、2.は心、3.は他者との関わりで生まれる気持ちの「張り合い」や「温かさ」のような充足感・刺激。それぞれの衰えや減少を防ぐことが、自分の健康な暮らしを守ることになります。
フレイル予防の必要性と意義
そもそも年齢を重ねると、ちょっとした風邪でも回復が遅れたり、つらい気分になったりなど、「元に戻るまでに時間がかかる」状況が増えがちになります。
これらが積み重なることで徐々に虚弱、フレイルへつながるので、その予防として「体力をつける」「食事内容に気をつける」「気持ちをスムーズにリフレッシュさせる」といった工夫を、若い頃よりさらに意識的に行うことが重要になってくるのです。
運動がフレイルを予防する理由
ではここから、先の3つのフレイルを予防するためのポイントを挙げていきます。まずは「1.身体的フレイル」の予防で、簡単な運動によって衰えを防ぐ方法です。
運動の筋肉への効果
筋肉が減ることで身体の動きが弱まると、身体をスムーズに動かしづらくなり、転倒などのリスクが高まります。
高齢者の筋肉の減り方で多く見られるのは、図のように、もともとついていた筋肉(左)が脂肪へ置き換わっていく形(右)です(加齢によるこのような筋肉の減少の仕方を「サルコペニア」と呼びます)。
図は腕の筋肉を表していますが、このように見た目の太さはさほど変わらないことも多く、そのために自身では、筋肉が減少したことをあまり認識できません。
とはいえ、運動を習慣的に行うようにすれば、図の左側のような筋肉の状態へ再び近づけることができます。
筋力と体力の維持、身体機能の向上
では、筋肉が増加すれば、具体的にどのように健康になるのでしょうか。
まず、運動機能の衰えが減り、以前より動きやすくなります。筋肉は骨や内臓など身体を保護する役目があるため、その保護機能が向上します。筋肉には血液や体液を全身に巡らせる働きもあるので、それらの流れの停滞が減り、むくみなどの改善に役立ちます。
また、よい姿勢を保てることでケガを減らし、筋肉が熱源となるので冷えなどの改善を助けます。さらに熱源が増える=脂肪の燃焼も助けるため、肥満の抑制につながります。
ほかにも運動のメリットとして、転倒予防、骨粗しょう症の予防、生活習慣病の改善・予防、腰痛や関節痛の軽減・予防などが挙げられています。 運動で筋肉量を増やし、筋力を取り戻していくことは、このようにさまざまな面から身体の機能や体力を維持・向上させるので、より健康的な生活を送れることになります。
運動による心の変化
運動の心への効果としてわかりやすいのは、気分転換やストレスの発散です。それ以外にも、先に挙げたように身体の機能がさまざまに向上して動きやすくなれば、家事などの負担感も軽減し、気持ちが少しはラクになります。
また、短時間の運動であっても自分のために行うので「自身を大事にできている」という温かい感覚が持てます。
高齢者のフレイル予防に適した運動プログラム
衰えた筋肉を「以前の状態へ近づける」ための運動は、急激な負荷をかけないよう気をつけながら、継続していくことが重要です。
運動療法の種類
加齢による筋肉の衰えは、まず下半身から始まるとされます。歩く、立ち上がる、座るなど、身体を支える大切な働きがあり、高齢者が最も筋力を保ちたい部分と言えます。ぜひ、運動に取り組んでみてください。
高齢者の場合、最初は特に、下半身を部位別に少しずつ鍛えることをおすすめします(運動方法は次の項からご紹介します)。
ただし運動に慣れてきても、自己判断で増やすのは「1セットの回数を少し追加」くらいにしてください。
長時間の運動に取り組んだり、手足へおもりを付けるなどして身体への負荷を強めすぎると、かえって痛みやケガを引き起こすかもしれません。
負荷を高めたいならまず、どんなやり方が「今の自分の身体」に合うかを事前に知りましょう。必ず、医師や作業療法士などの専門家に相談し、その指導のもとで負荷を増やしていくようにしてください。
また、現在、身体のどこかに痛みや不具合が出ている場合も、医師や専門家に相談して、問題のない運動メニューを選んでください。
高齢者向けの効果的な運動(動画あり)
ケア21では、理学療法士の指導による高齢者向けの運動方法を、動画にて紹介しています。 今回はこれに沿って、フレイルを防ぐ下半身(足)の運動を紹介します。
安全に実施するためのポイント
■決して無理をしないでください。軽めの運動でも、筋力の維持に効果はあります。無理をすると、こむら返り(足のつり)や腰痛、ひざ痛などを引き起こす危険性を高めます。
■足がつる場合、筋力が衰えている可能性があるほかに、水分不足も原因として考えられます。運動の前・後の両方で、水分と塩分を補給してください。
■各運動は「1・2・3・4」とカウントしながら行います。4カウントを4~5秒、1秒1カウント程度で、ゆっくり唱えてください。
4カウントの間隔がよくわからない場合は、秒針が音を立てて動く時計をそばで使ったり、メトロノームがあれば1秒1カウントに設定して横へ置いてもよいでしょう。
また、好きな音楽を聞きながら秒針を見て、1秒または4~5秒の間隔を曲のリズムに合わせて覚えられれば、その曲をかけながら運動することも可能です。
■カウントするときは必ず、息を吐きながら数えるよう意識してください。今回ご紹介する運動は、息を止めて行うと、効果が出づらくなります。
●フレイル予防動画 #1 フレイルって何?
フレイルとは? 説明動画 全編
1つめの動画では改めて、フレイルについて説明しています。動画に出てくる厚生労働省の定義は難しいので、こちらでも紹介しておきます。
「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、
複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、
生活機能が障害され心身の虚弱性が出現した状態」
なお、厚労省の定義は、先の文章に続いてさらに
「~心身の虚弱性が出現した状態であるが、
一方で適切な介入・支援により、
生活機能の維持向上が可能な状態像」※1)
となっています。
●フレイル予防動画 #2 お尻の筋肉を鍛える運動
お尻の筋肉についての解説付き 運動動画 全編
下肢(股部分・ひざ・足・関節・足指等)のうち、お尻の筋肉を鍛える運動です。お尻の筋肉は大きいので、鍛えることで健康への効果が出やすい部位とされています。
お尻の筋肉は主に、骨盤や足の前後の動きを支える大臀筋(だいでんきん)、骨盤や足の側面への動きを支える中臀筋(ちゅうでんきん)、中臀筋の動きを補助する小臀筋(しょうでんきん)で構成されています。
【その1 臀部(でんぶ)全体の運動 ~お尻上げ】
お尻全体を鍛えます。
①仰向けに寝て、両腕は手の甲を上にして床へ伸ばす
②ひざを自然な位置で立て、足先を軽くそろえる。足裏全体で床をしっかり踏む
③息を吐きながら4~5秒かけて4カウントを取り、それに合わせて、お腹が一直線になるくらいまでお尻を上へ持ち上げていく。かかとは浮かせないようにする。
一直線にするのが難しい人は、無理しないよう注意。
持ち上げる際にお尻の筋肉が、徐々に固くなることを感じてみる
④お尻が固くなるようにお腹を上げたら、再び息を吐きながら、同様の4カウントでお尻をゆっくり床へ下ろす
10~15回を1セットとし、慣れてきたら30秒~1分ほどの休憩をはさんで、毎日3セットを目安に続けましょう。毎日が無理なら1日置きでもよいので、まずは1日10回を目指してみてください。
【その2 大臀筋の運動 ~片足ずつ後ろへ伸ばし上げ】
まっすぐ立って、台所のシンクなどの端に両手を乗せて支え、片足ずつ後ろへ上げる運動です。
支える際は端を強くつかむ必要はありません。
動画のように、身体を前にあまり倒さずに手をつける高さ(一般的なダイニングテーブルよりは少し高め)のほうが、運動中の身体の傾きを防ぎやすいでしょう。ただし、安定感が悪い家具は危険なので、利用しないでください。
また、台の代わりに壁や手すりのポールなどを利用することも避けてください。運動中に腕で突っ張ったり、強く握ったりしすぎて、逆にバランスを取りにくくなります。
①手を軽くそろえて台に置く
②身体をまっすぐにできる位置で立つ
③片足を、息を吐きながらゆっくり4カウントで後ろへ上げていく。
上げる足はひざを伸ばし、太もものつけ根から足首まで1本の棒になるよう意識する。
身体が前や横へ倒れない範囲で、無理のない高さまで上げていく
④4カウントで上げたら、身体をまっすぐにしたまま、次の4カウントでゆっくり下ろす。
このときもひざを曲げないようにする
この運動では主に、お尻の上部がゆっくり縮んでいき、下ろすとゆっくり伸びていくことを感じてください。片足ずつ各10回、左右で計20回を1セットとし、毎日3セットを目指しましょう。
【その3 中臀筋の運動 ~片足ずつ横へ伸ばし上げ】
次はお尻の横側を鍛える運動です。片足ずつ、身体の真横へ足を開いて上げていきます。このときも足はまっすぐ伸ばしたままにし、上半身も倒さないよう気をつけます。
①その2と同様の高さの台へ、肩幅くらいの位置で両手を置く
②足が台に当たらない、なるべくまっすぐ立てる位置で、両足を軽く開いて立つ
③息を吐きゆっくり4カウントで、片足を横へ開いて上げていく。
上げる足は、足首と足先は自然な状態、足のつけね~足首までが1本の棒になるよう意識して、つけ根から横へ上げる。頭の位置も高く保ち、身体が前や横へ倒れないよう注意
④4カウントで無理のない高さまで上げたら、同じく息を吐きながら4カウントでゆっくり下ろす
お尻の横側の筋肉が、ゆっくりと縮む → 伸びるのを感じてください。
この筋肉は、ふだんの生活では鍛える機会があまりない部位です。そのため強引に高く上げたり、スピードを速めたりすると、足やお尻の筋肉がつる(筋肉が収縮しきって痛くなる)可能性が高く危険です。無理のない範囲で、ゆっくり行うよう注意しましょう。
左右各10回を1セットとし、毎日3セットの継続を目指してください。
●フレイル予防動画 #3 太ももの前側の運動
太もも前側の筋肉についての解説付き 運動動画 全編
次は太ももの筋肉の前側を鍛える運動です。ここには大腿四頭筋(だいたいしとうきん)と呼ばれる複数の大きな筋肉があります。大きい筋肉は、動かすことで血行の改善等、健康への効果がより高まるとされています。
大腿四頭筋は、ひざを伸ばすときに使ったり、ひざを支えるサポートをする筋肉です。歩行の能力にも大いに関係しています。
ただし、現在すでにひざを痛めているという方は、この運動の上手なやり方を、必ず事前に医師や専門家へ相談してください。
【その1 太もも前面の運動① ~椅子に座ってひざ下伸ばし】
椅子に座った姿勢で、ひざから下を伸ばして持ち上げる運動です。
つま先は、自分のいる方向、手前側に少しでも近づけるよう意識すると、太もも前側の筋肉がより縮まるのが感じられます。
とはいえ、慣れないうちにつま先を強く自分側へ寄せすぎると、足がつったり筋肉を傷めたりするので、ゆっくり無理のない範囲で行うようにすることが大切です。
①両足が床につく高さの椅子へ、しっかり足裏をつけて座る。背すじはまっすぐ伸ばす
②4~5秒の4カウントで息を吐きながら、片足のひざをゆっくり伸ばし、足が横一直線になるよう上げていく。
上げる際、つま先を自分のほうへ無理なく向ける(近づける)ようにする
③ひざが伸び、太もも前側の筋肉が縮まったのを感じたら、再び息を吐きながら4カウントでゆっくり下ろす
この運動では、太ももの後ろやふくらはぎにまで刺激・痛みを感じると逆効果。前側の筋肉にあまり効いていない証拠です。前側の筋肉を意識しながら、ひざ下のみ動かしてください。
片足につき10~15回、両足を行って1セットです。慣れてくれば30秒~1分の休憩をはさんで3セットくらいを目指しましょう。
【その2 太もも前面の運動② ~椅子に座ってひざ頭(ひざがしら)上げ】
同じく椅子に座り、今度は、ひざから下を自然な状態にさせたまま、ひざ頭を動かします。
①両足がつく高さの椅子に、足裏がしっかり床へ着く位置で座る。背筋はまっすぐ伸ばす
②片方のひざ頭を、真上へ持ち上げていく。その際、動画のように、ひざの辺りに片手を添えておくと、ひざ上の腱(けん)が伸びて太もも前側の筋肉が縮むのが感じられる。
ひざから下は、力を抜く。また、無理な高さまでは上げないようにする。4~5秒4カウントで、息を吐きながら上げる
③次の4カウントで再び息を吐きながら、ゆっくりとひざ頭を下ろす
この運動は4~5秒4カウントだけでなく、少し早めの3秒4カウントくらいでもOKです。
片足につき10~15回、両足で1セットです。慣れてくれば30秒~1分の休憩をはさみつつ、毎日3セットくらいを目指しましょう。
【その3 太もも前面の運動③ ~お尻を沈める】
太もも前面の3つめは、椅子の背を2つ、向かい合わせて両手の支えとし、お尻をまっすぐ床へ沈める運動です。
お尻を沈めすぎない、支える手にも力が入りすぎない程度で行います。負荷が強いと腰や足を痛める可能性があるので、必ず、足腰がプルプルとは震えない範囲で運動してください。
①椅子の背面を向かい合わせにし、間にまっすぐ立って両手で背を持つ。椅子の背の高さは、ひざを曲げなくても手をかけられるくらい。椅子の背が低すぎたり、逆に高すぎてひじがかなり曲がるようだと、この運動を行いづらいので注意
②お尻をまっすぐ床のほうへ沈めていく。身体は前傾させず、床に対して垂直を保ったままになるよう意識する。無理なくお尻を自然に落とせるところまで、息を吐きながら5秒4カウントくらいでゆっくり行う
③同じゆっくりの4カウントで、お尻の位置を元に戻す
椅子の背は必ず2つ用意して、その間に立つようにしましょう。1つの椅子の背を、椅子の後ろ側から両手でつかむ形だと身体が前傾しやすいうえに、椅子が動いて転倒する恐れがあって危険です。
10回を1セットとして、慣れてくれば30秒~1分の休憩をはさみつつ、毎日3セットくらいを目指しましょう。
また、この運動では筋力がついてくると自然に、お尻を沈める位置が深くなっていくので、それを目指してみるのもよいかもしれません。
●フレイル予防動画 #4 太ももの裏側の運動
太もも裏側の筋肉についての解説付き 運動動画 全編
太もも裏側の筋肉は主に、骨盤を傾ける、ひざ関節を曲げる、足を内や外へ回すなどの動作で使います。
大腿二頭筋(だいたいにとうきん)は上部が2つに分かれていて、股関節を伸ばす動きにも関わります。この筋と、半腱様筋(はんけんようきん)、半膜様筋(はんまくようきん)の3つを総称して「ハムストリングス」とも呼びます。
このハムストリングスに柔軟性がなくなると、腰痛の原因になります。柔軟性があって筋力もある状態が理想です。
【その1 太もも背面の運動① ~かかとを高くしてお尻上げ】
太ももの裏側全体を鍛える運動です。筋力の弱い方はお尻が持ち上がらないかもしれませんが、太もも裏側の筋肉が固くなることを感じられれば、効果があるので大丈夫です。無理をせず、息を吐きながらゆっくりやりましょう。
①足のそばに椅子を用意して、床に寝転んだときに、かかとを椅子の座面に乗せられる位置へ調整する
②仰向けに寝て、かかとを椅子の座面に乗せる。両腕は床へ自然に伸ばす
③4~5秒4カウントでゆっくり息を吐きながら、かかとを起点にしてお尻を上へ持ち上げる。
腰やひざに痛みがある人は特に無理をしないよう、様子を見ながらやる。また、お尻が実際には持ち上がらなくても、ハムストリングスが固くなるのを感じられたらOK
④息を吐きながら、ゆっくり4カウントでお尻を下ろす
10回で1セット、30秒~1分の休憩をはさんで毎日3セット行えるようにしましょう。
【その2 太もも背面の運動② ~立ち姿勢で片ひざずつ曲げる】
片足ずつ上げて、太ももの裏側を鍛える運動です。椅子の背で身体を支えるので、椅子が動かないようロックするか、重い椅子を利用してください。
①椅子の背を自分のほうへ向け、両手で背を持つ。まっすぐ立てるところへ身体の位置を調整し、足を軽く開く
②前かがみにならないよう背筋を伸ばしたまま、4~5秒4カウントで息を吐きつつ、片足のひざを曲げてかかとを後ろへ上げていく。
かかとは足に対し、まっすぐ後ろへ上げるほうが効果的。その際に、横や前へ身体が倒れないよう、椅子の背をきちんとつかんでおく
③同じ4カウントで息を吐きながら、ゆっくり片足を下ろす
この運動は急いでやったり、足へ無理やり力を入れたりすると、足がつる危険があるので注意が必要です。片足につき10~15回、両足で20~30回を1セットとして、30秒~1分の休憩をはさみつつ毎日3セットを目指しましょう。
●フレイル予防動画 #5 足のすね前側の運動
すねの外側の筋肉についての解説付き 運動動画 全編
https://www.youtu.com/XC2nKDWjrtg
足のすねの外側にある前脛骨筋(ぜんけいこつきん)は、ひざと足の親指をつなぐ筋肉です。この筋肉は、歩くときにつま先を上げる働きをします。
つま先をしっかり上げ、地面をきちんと蹴って歩くことで、地面の小石や凹凸などに「けつまずく」危険性が減ります。
またこの筋肉は、足の裏の「土踏まず」を保つ働きも担います。土踏まずの機能が働くことで、歩行時にひざなどへかかる衝撃がやわらぎ、身体のバランスを取りながら上手に歩くことができます。
つまり前脛骨筋は、歩行を守るうえでとても大切な筋肉と言えます。
【その1 すねの運動① ~椅子に座り、つま先の上げ下げ】
椅子に座って、つま先を上げ下げして前脛骨筋を鍛える運動です。とくに足の小指側をしっかり上げるよう意識すると、より効果的です。
頑張りすぎると足のすねの筋肉やふくらはぎがつることもあるので、力を入れすぎず、また、痛みが出ないか様子を見ながら行うようにしてください。
万が一、すねがつってしまった(勝手に縮み、痛みが出た)場合は、つったほうの足指を全部、手を使って内側へしっかりと曲げます。これで前脛骨筋が伸ばせるので、やがて痛みが治まります。
逆に、後ろ側のふくらはぎがつった(こむら返りを起こした)場合は、足の親指を手でつかんで、すねのほうへ弓なりに反らすとよいでしょう。
① 両足の裏全体が、床にきちんとつく高さの椅子に座る
②かかとは床につけたまま、両方の足指を上げていく。できればかかと以外の足裏が床から離れるくらいまで、息を吐きながらゆっくり4カウントで上げる。無理な場合は指先だけでも意識して上げる
③同じゆっくりの4カウントで元へ戻す
両方の足指を同時に上げ、10回で1セットです。休憩をはさみながら、毎日3セットを目指してください。
【その2 すねの運動② ~ゴムチューブをつま先で引っ張る】
ゴムチューブを使っての運動です。チューブをひっかける椅子等は、運動時に、チューブを足先で引っ張っても動かない重さのものにしてください。軽いと椅子などは動いてしまい、ケガにつながる恐れがあります。
①重めの椅子の脚などにトレーニング用のゴムチューブをかける。トレーニング用ゴムチューブは自転車の古タイヤなどでも代用できるが、できれば運動器具として、これから先の運動のためにも100均などでの購入がおすすめ
②床に座って片足を伸ばし、足先、指のつけねのあたりをチューブに通す(位置は画像を参照)。もう一方の足は楽な姿勢でよいが、運動の邪魔にならないようにする
②そのままゆっくり、4~5秒4カウントで息を吐きながら、足先でチューブを引っ張って、つま先を身体のほうへゆっくり向ける。このとき急いだり、強く引きすぎると、足がつる危険性があるので注意する
③再びゆっくり息を吐きながら、4カウントで足先を元の位置に戻す
片足につき10~15回、両足とも運動して1セットです。30秒~1分の休憩をはさんで、毎日3セットを目標にしましょう。
フレイル予防に必要な栄養とは
「1.身体的フレイル」の進行を抑え、予防するためには、食事も大切です。厚生労働省によると「たんぱく質をとり、バランスよく食事をし、水分も十分に摂取する」こととされています※2)。
たんぱく質の役割と摂取方法
身体のもとになるたんぱく質は、食べたあとに筋肉などでいったん貯蔵されますが、必要に応じて分解され、全身へ送られます。分解されると再合成や再貯蔵はできないため、食事などからたんぱく質を補充し続けないと、体内では減る一方となります。
また、たんぱく質を貯蔵して筋肉をつくる際には、各種のビタミン・ミネラルも必要です。つくる際のエネルギーとなる糖類も大切です。
こうした点から、1日3食しっかり、バランスよく食べることが求められています。
たんぱく質はいろいろな食材に含まれているので、これを必要な量、摂取する意識を持つことで、ほかの食材も組み合わせやすくなり、結果的にバランスよく食べられることにつながります。
1日の摂取量の目安は厚生労働省によると、表のようになっています。
また、各食品に、たんぱく質がどのくらい含まれているかを大雑把にでも把握しておくと、「今日は少し足りないかな」などと、だんだん感覚的に摂取量もつかめるようになります。
文部科学省のデータベースより、高齢者でも口にしやすそうな食品をいくつかピックアップしておくので、試しに食べたものを合計して、1日の摂取量を把握してみましょう。
たんぱく質は、野菜類や穀類などにも含まれていることを知っておいてください。
口腔ケアと栄養の関係
また、1日3食の食事のペースも、守ったほうがよい習慣です。食材の組み合わせ方は、
主食(米などの穀類、エネルギー源)
主菜(肉や魚などおもにたんぱく質)
副菜(野菜や海藻、大豆など、ミネラルとビタミン、たんぱく質)
果物や乳製品などのデザート(不足分の補充)
です。厚生労働省が出している下記のパンフレットを参考にしてみてください。
■厚生労働省パンフレット「食べて元気にフレイル予防」
https://www.mhlw.go.jp/content/000620854.pdf
食事では、食材の味をしっかり味わう意識を持ちましょう。味わって食べるということは、食品をたくさん、かみ砕いてから飲み込むことでもあります。消化も飲み込み具合もラクになるので身体への負担が減ります。さらに少量ずつよく噛めば、より安全に食事を楽しめます。
こうした食事の仕方を続けるために、歯の手入れ等、口の中のケアもまた、大切になってきます。
「オーラルフレイル」の概念
ここまで、食品と栄養・食事について述べてきましたが、先にも述べたように食事をする際には
・口に入れた食品をしっかりかみしめ、砕くことができる(消化しやすくなる)
・食品を飲み込む際、むせずに上手に飲み下せる
といった点も大切で、そのための「口の中のお手入れ」も高齢者にとっては重要なポイントとなります。
人の、唇~のどまでの範囲を「口腔(こうくう)」または「オーラル」と呼びます。高齢になると歯が抜けたり筋力が弱まるなどして、口腔の機能に衰えが見られますが、これを「オーラルフレイル」と呼んで、健康を守るための機能改善が呼びかけられています。
オーラルフレイルの定義
高齢者の健康を維持する研究・啓発を続けている日本のいくつかの学会が合同で提唱した、高齢者のオーラルフレイルの定義は、以下になります。
オーラルフレイルは、歯の喪失や食べること、話すことに代表される
さまざまな機能の『軽微な衰え』 が重複し、
口の機能低下の危険性が増加しているが、改善も可能な状態である。
オーラルフレイルの予防と対策
たとえば食事を食べこぼす、少ししか食べられない、滑舌が悪い、口のニオイが気になるといった点が、高齢者のオーラルフレイルの状態を見分けるポイントとなります。
公益社団法人日本歯科医師会が出している、確認方法やチェックリストを分かりやすく紹介しているリーフレットがあるので、紹介しておきます。
■オーラルフレイル リーフレット
https://www.jda.or.jp/pdf/oral_frail_leaflet_web.pdf
また、口の中で何らかのトラブルがあって治療が必要そうな方は、将来、食生活や会話などを不自由に感じないよう、自分の症状に合う診療科で早めに受診しましょう。
唇あるいは歯や歯ぐきに、何らかの症状が出ているなら歯科や口腔外科へ、口の中・のどの粘膜に関する症状なら耳鼻咽喉科(じびいんこうか)になります。舌の症状は、どちらの診療科でも対応可能です。
さらに日本歯科医師会では、オーラルフレイルの予防・改善を助ける「声出しでの口の運動」、「ブクブクうがい」といった対策方法をたくさん紹介しています。
ご自身が気になる部分を中心にぜひ、実践してみてください。
■オーラルフレイル対策のための口腔体操
https://www.jda.or.jp/oral_frail/gymnastics/
食事と運動の相乗効果
これまで述べてきたように、運動・食事は自身の健康な暮らしと密接に関係しています。
たんぱく質をとって体操などの運動を継続すれば筋肉量が増え、血流なども改善します。骨を強くするため、カルシムなどを摂取して散歩等で骨に負荷をかければ、骨粗しょう症(こつそしょうしょう)を予防できます。
骨と筋を鍛え、日常生活でバランスよく動ければ家事もしやすくなり、段差などでのケガもより防ぎやすくなます。また、運動することでお腹が空き、食べる量も増えやすくなるでしょうから、「低栄養」による身体の不調を防ぐことができます。
さらに食と運動を充実させればストレス発散にもつながって、心にもよい影響があると考えられます。つまり、「1.身体的フレイル」を防ぐための食事と運動は、「2.精神・心理的フレイル」にも効果があると言えるのです。
地域でのフレイル対策活動
「2.精神・心理的フレイル」と「3.社会的フレイル」もまた、関係性が深いとされています。
「3.社会的フレイル」になることを予防する、つまり社会的活動に参加することは、「2.精神・心理的フレイル」の予防にもなります。
地域での健康講座とその参加意義
まず「精神・心理的フレイル」と「社会的フレイル」について説明します。
「精神・心理的フレイル」とは、高齢になって表れてくる「認知機能の低下」や「不安・抑うつ・疲労・不眠」といった症状のことです。
このうち「認知機能の低下」は単なる物忘れにとどまらず、興味・関心の低下、予定管理等、時間の把握能力などにも影響するので、スムーズな日常生活を送りづらくなります。
「不安・抑うつ・疲労・不眠」は、肥満ややせすぎ(低栄養)とも関係があるとされます。社会生活からも、身体からも影響を受け、逆にそれぞれへ影響も与えるのが、「精神・心理的フレイル」です。
3つめの「社会的フレイル」は、他者との関わりを面倒に感じ始め、孤立していくことです。この孤立は、身体機能の低下や気持ちがダウンしていく状態を招き、各種のフレイルが進行します。
日本国内では、自治体主体で社会的フレイルの予防活動に取り組んでいるところがたくさんあります。そのうち、比較的大規模で継続的な調査として知られる千葉県柏市の調査では、高齢者の社会的な孤立や経済的困窮が重なると、数年後の要介護認定リスクを2~3倍も高めてしまうことが分かりました。※3)
このようなデータから、例えば居住エリアの地域包括支援センター(高齢者の介護度認定や困りごと相談などに応じる自治体の機関)がサポートする「健康講座」や「交流カフェ」など、高齢者向けの交流イベントへ参加することは
①他者と交流することで、気分転換ができる
②主催者や活動サポーターと顔見知りになり、そこからやがて、悩みごと等、自身の相談へとつなげられる
③自治体の各種相談窓口が分かる、あるいはその様子がわかる、担当者が分かるなど、公的な相談窓口の内容を理解したり、つながったりするきっかけにできる
といった利点が考えられ、社会的フレイルを予防する一助になると思われます。
社会参加がもたらす効果
フレイル測定会、高齢者体操など健康に関するイベントは、各種の自治体で行われています。実費のみで参加できるもの、無料で参加できるものもあります。
機会があれば、自治体がサポート・主催する会やイベントへ、一度、見学・参加してみることをおすすめします。とくに今後の生活に不安を抱えている方は、そこで自治体の相談窓口がわかるだけでも、気持ちが落ち着くかもしれません。
地域交流イベントの活用法
こうした会に参加したことがきっかけで、ご自身がサポーターとして会の運営を手伝うことになった方も、全国各地にいらっしゃるようです。何かに参加して役割を果たす、という行為は、自身の生活に張りを与え、気持ちのうえでの「活力」につながります。
自治体の相談窓口につながり、悩みを話すだけでも、うつうつとしていた気持ちが晴れることもあります。
ぜひ、地域包括支援センターへ行ってみるか、電話で連絡をとってみて、困りごとのサポートへつなげてください。
フレイル対策に取り組むために
ここまでさまざまな対策をご紹介してきましたが、最後に継続についてのヒントをご紹介します。
日常生活でできる身体活動
まず、日常の家事をしっかり行うことは、運動量を増やすことにつながります。散歩の時間を1日10分くらいまで増やすことも、筋肉を鍛えたり、骨量を維持・増加することにつながります。
外を散歩しづらければ、家の中で、階段を上り下りする回数を意識的に増やしたり、家の中をぐるぐると歩き回る、壁や窓枠につかまってつま先立ちを繰り返す、という方法もあります。テレビを見ながら手足の指を1分間「グー・パー」するだけでも、手足の動きの衰えを防ぐことにつながります。
習慣化するためのコツ
このように小さな運動にもなる日常活動は、継続することがとても重要です。自分が選んだメニューを、メモに複数枚、書き込み、トイレやカレンダーの横、洗面所、ドアの扉など、部屋の中で目を向けやすいところへ何カ所か張っておきましょう。
そして、「見て思い出したときに、すぐやる」ことを意識しましょう。
仲間と共に行う健康活動
誰かと話をする、共同で作業する、という行為は、自身で思っているよりもずっと、気分転換のきっかけになります。
社会参加・社会活動というと、大げさに聞こえるかもしれませんが、本当に簡単なものへの参加で大丈夫です。自治体によっては、介護度認定前の高齢者向けにリハビリ運動施設に通う制度もあります。
また、会話だけなら、今はインターネットを通じて、文字や動画でやりとり(Web会議などのシステムを利用)することで、ご自宅からでも趣味の学びや会に参加できます。
そうした機器の使い方を覚えて参加してみることも、新しい趣味や、共通の話題がある友人との出会いにつながったりするかもしれません。
自治体でも、各種の社会参加への提案を、さまざまに展開・サポートしています。例として兵庫県西宮市のホームページに載っている例を、ご紹介しておきます※4)。
・地域貢献:ボランティア、自治会活動、防犯パトロールなど
・趣味:合唱や俳句などのサークル活動、料理教室、写真など
・学ぶ:パソコン、英会話、歴史など
・働く:清掃、レジ打ちなど
最初はおっくうに感じるかもしれませんが、「参加するための支援」も、各自治体でいろいろ充実してきています。高齢者を支えるせっかくの仕組みですから、ぜひ活用してみましょう。
運動や食事、身体やお口のケア、社会参加を通じてフレイル予防ができ、「年を取っても楽しい暮らし」が実現することを、私どもケア21は心より願っています。
動画「ケア21の100年続くチャンネル ー今から始めよう!フレイル予防 シリーズー」
出典・引用・参照
※1) 厚生労働省 2017年7月18日 「市町村セミナー 後期高齢者の健康 -フレイル対策を中心とした保健事業について-」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000114064_12.pdf
※2) 厚生労働省 広報誌『厚生労働』2021年11月号 「健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202111_00001.html
※3) 公益財団法人 神奈川県予防医学協会『予防医学』2019年1月第60号 p.15-19 「健康長寿社会における健康支援-アクティブシニアを目指して-」
https://www.yobouigaku-kanagawa.or.jp/info_service/preventive_medicine/pdf/035-040.pdf
※4) 西宮市ホームページ 高齢者福祉「フレイル予防で健康長寿」
https://www.nishi.or.jp/kenko/koreishafukushi/frail/frail-yobou.html
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